「祈莉。梨久だ。連れてきたよ」
 「こんにちは。清水菜々です。無理言ってすみません」
 祈莉はベッドに寝転がっていて身体をゆっくり起こす。前より痩せていた。
 「あ...貴女が菜々さんですね。わざわざありがとうございます」
 クマがうっすらと浮かぶ眼で笑って挨拶をした。明らかに声に覇気がない。
 しんどい時に我儘を言ってしまった事を後悔する。
 「ここに座って。なるべく手短にね。僕2階で勉強してるから」
 「分かった。ありがとう」
 2人を残して病室を出る。
 流石に聞き耳を立てることはしなかった。


 1時間程たっただろうか。外は雨が降り始めていた。
 「ありがとう。スッキリした」
 急にそう言われ顔を上げると清水が立っていた。
 僕が何かを言う前にスタスタと1人で帰ってしまった。

 「祈莉? 入るよ」
 ボーッと窓の外を見つめる祈莉。
 顔が見えない。
 「何、話したの? 」
 びっくりした顔でこちらを振り返る。
 言葉が詰まった。一瞬思考が停止した。
 祈莉が泣いていた。
 顔を崩す事泣くただ眼から涙がこぼれ落ちていた。
 「梨久君? 」
 「うん。そう。僕。どうしたの」
 「なんにもないよ」
 涙をふく。

 「もう、来ないで」

 「え? 」
 「菜々ちゃんの話を聞いて、幻滅したって言うかちょっと引いたって言うか。まぁそういう事だから」
 そう言って背を向けて布団に潜り込んでしまった。
 頭が真っ白で気がついたら病院の外を傘もささずに歩いていた。
 僕はあの後祈莉に何か言ったのだろうか。
 清水は祈莉になんと言ったのだろうか。
 清水に何も聞かなかった。
 もうどうでも良かったから。
 何もかもどうでも良かった。
 勉強もあまりしなくなった。
 別にしなくたってクラス10位以内にはどうせ入れる。
 また、息をするだけの生活に戻った。
 僕の世界から色が無くなった。そんな感覚だった。