なに色? 教えてよ

 「ただいま」
 誰も居ないアパートの一室。
 真っ暗な部屋に電気をつける。
 このボロアパートで父さんと二人暮し。
 簡単にご飯を作って食べる。
 片腕がなくったって料理くらいできる。
 最初はそりゃ大変だったけど。
 慣れてこればこんなのなんら普通だ。
 ただものを切ったりするのは僕の場合は多少専用の道具がないと難しい。
 いいんだ。僕にはこれくらいがちょうどいい。充実した生活を送るなんて僕には許されてない。
 これは自分への戒めだ。
 別に誰かが僕に向かって「充実してるなんて許さない」って言ってきたわけじゃない。
 僕が僕を許してない。
 そんなことを思いながら母さんの仏間に手を合わすのはバチあたりだろうか。
 片手を自分の前に出し手を合わせるポーズをする。
 腕が無いことを母さんは悲しむだろうか。

 「いつまでそうしている」
 急に声を掛けられ振り向く。
 「あぁ、父さん。帰ってたんだ」
 仕事から帰ってきた父さんはネクタイを緩めながら僕が作ったご飯を電子レンジに入れた。
 シンとした部屋に電子レンジのゴーッという音だけが響く。
 先に口を開いたのは父さんだった。
 「まだ母さんにすがってるのか」
 「そんな言い方しなくていいでしょ」
 まただ。父さんは母さんの事になるとすぐに
 機嫌が悪くなる。
 普段たいした会話をしないくせにこういう時は2人ともよく口が動く。
 母さんが母さんがって2人で叫びまくる。
 僕達家族は母さんが居たから成り立っていたんだ。父さんだって母さんが死ぬまでは優しい父親だったのに。
 今じゃ働くだけのただのロボットだ。
 「父さんだって、母さんが死んでから人が変わったじゃないか。いつまでも母さんにすがってるのは父さんの方だ」
 僕はそう言い放って自室にこもった。
 もうしんどい。こんな毎日。
 もうやめてしまおうか。こんな人生。
 今目を閉じたら終われるんじゃないか。
 そう思って目を閉じた。