「久しぶり。梨久だよ」
 「梨久君!!久しぶりだね」
 弾んだ声。でも心做しか少し痩せたような気がした。
 「調子はどう? 」
 「暑すぎて溶けそうって連絡してから外に出れてないんだよね。結果がわるくなっちゃってさ」
 祈莉を蝕む''何か''はどんどん脳へダメージを送っていた。でもその''何か''は未だに分からないまま。
 椅子へ座ると祈莉の髪の毛にゴミが着いていた。
 「祈莉、ついてる」
 サッとゴミをとってやる。
 そう言えば祈莉はいつも身だしなみがとても整えられていてこうやってゴミが着いているようなことは珍しい気がする。
 「珍しいね。ゴミがついてるの。逆にいつも着いてないのが凄いくらいだよ」
 「眼をが見えない分身だしなみはお母さんとか看護師さんに頻繁にチェックしてもらってるんだ。手にマーカーがついたの気が付かずに顔触っちゃって黒い線取れなくなった時は焦ったな〜」
 その顔見たかったよと祈莉を茶化す。
 「あっ! 梨久君これつけて」
 えっとどれだ? と言いながら机の上を手探りで動かし、アイマスクを取って渡してきた。
 言われた通り大人しく付ける。
 「これはなんでしょうクーイズ!!」
 そう言うと何かが手に握られた。
 「細長い...ん? なんか取れたぞ。あれ、こっちもなんか取れた。うわっこの感触...サインペンか。僕今絶対インクの所触ったよね」
 どれどれ? と祈莉も僕の手の中のものを触る。
 「多分今梨久君手、真っ黒だね。正解! サインペンでした〜。梨久君片手でサインペンの蓋取るのプロだね」
 アイマスクを取ると親指と人差し指にインクがついていた。
 「はい! 次! もっかい付けて? 」
 「ん」
 筒のような形。素材は固くて冷たい。1度机において筒を手で辿ると塞がっていて反対にして辿ると穴が空いていた。
 「花瓶か」
 「えっ! すご! 絶対分からないと思ったのに」
 「この手の花瓶を前祈莉の病室で見た記憶があったんだ」
 「天才だね。はい、3問目」
 さっきの花瓶とは打って変わってフワフワな感触。上から小さい丸が2つ。大きい丸にくっついていてそれもなにか4つの棒が突き出てる丸にくっついていた。真ん中の丸を探ると硬いビー玉のような物が2つ。埋め込まれていた。
 「クマのぬいぐるみ? 」
 「ブッブー!!不正解!!アイマスク取ってごらん? 」
 アイマスクを外すと僕の手の中にはパンダのぬいぐるみがあった。
 「そんなのズルいよ」
 「同じような形されると色なんて区別つかないでしょ」
 確かにクマとパンダなんて影だけみたらほぼ一緒だ。
 いかに僕らが眼に頼っているかということがなんとなく理解出来た。
 その後も2、3門やった所で帰ることにした。

 ▶『⠵⠕⠁⠳⠕』
 ▷「またあした」うん、また明日ね
 こういう普通の毎日があとどれ位送れるだろうか。
 それを考えると少し怖かった。