ゴーっとクーラーの音が鳴り響く。
 課題が終わらない。
 家には僕と清水菜々だけだった。
 課題を1ページ片付けるごとにスマホを覗く。
 僕がスマホを覗く度に彼女もこちらに顔を向けた。
 今日はちょっといつもより多めに覗いてみる。もちろん祈莉からの連絡を待っているのもある。というかそれが理由のほとんどをしめているが純粋になんで清水菜々が僕をこんなに誘うのかが気になったからだ。
 すると案の定清水菜々は口を開いた。
 「梨久君っていつもスマホ気にしてるよね」
 「友達から問題が届くんだよ」
 「問題? 友達ってこないだ言ってた友達? 」
 「うん。祈莉っていう入院してる友達がいて、凄く重い病気のせいで眼が見えないんだ。僕なんかの事を生きる希望だと言ってくれた。僕もそれになるべく答えたいんだよ」

 清水菜々が黙る。

 「でもさ、」
 同時に僕のスマホが震える。
 ▶検査終わったよ。暇なら会いたいな
 「ごめん。僕帰るね」
 課題をまとめてカバンにしまう。
 立ち上がって部屋を出ようとした時、
 手を引かれた。
 「ねぇ、待って。聞いて。その子はさ梨久君の事が見えてないんでしょ? 私はちゃんと梨久君を見てるよ」
 1度息を吸ってゆっくり吐く
 「梨久君人の話を聞く時興味なかったら頬杖つく癖あるでしょ。古典の授業は絶対寝てるよね。そのくせ毎回テストいい点数取るし、人に物貰ってもそんなに嬉しそうじゃないくせにプリン貰った時だけちょっと嬉しそうだし」
 「気持ち悪いって思った? 」
 「何が言いたいのか僕には分からないよ」

 「梨久君が好きなの。祈莉ちゃんっていう女の子よりずっと前から」
 理解ができない。清水菜々がいう全ての事が理解できない。
 「祈莉は別に僕の事好きなんかじゃないよ」
 絞り出して言った言葉。
 「梨久君は何も分かってないよ。私も一応女だから分かるもん祈莉ちゃんは梨久君が好きだよ。そして梨久君も祈莉ちゃんの事が、」
 「僕の何を知ってるんだよ」
 ずっと早口で喋り続けていた清水菜々が黙った。こちらを一直線に見て。
 握られていた手がゆっくり離される。
 僕の腕がブランと下がってしばらくして
 「ごめんなさい」
 そう言われた。
 「いや、こっちこそ。ごめん」
 それ以上なんて言ったらいいか分からなくて
 彼女を置いて部屋を出た。
 ▷ごめん、今日は無理だ
 そう返信をして訳もなく家へ走って帰った。