部屋にこもって課題をしていると
 ノックもなしに父さんが入ってきた。
 「おい、最近どこをほっつき歩いている」
 返事はしない。
 「お前もバイトして金を稼いだりもっとちゃんと勉強しろ。いつまでも遊び回るな」
 それだけ言い捨て部屋から出ていった。
 身体の中の酸素全部吐き出したんじゃないかくらいでっかいため息が出た。
 課題を進めるシャーペンの音だけが響く部屋にスマホのバイブ音がした。
 ▶『⠁⠝⠹⠐⠣⠟⠞⠫⠺⠉』
 ▷『暑すぎて溶けそう』病院の外には出れてるんだね良かったよ
 ▶正解!!うん、アイスも買ってもらった
 他愛も無い会話を続けながら近くの図書館へ向かう。最近の僕の日課だ。
 全盲の人の為の本や目が不自由な人について綴られている本を取り席につく。
 会話は祈莉の「検査行ってくる」という言葉に僕が「行ってらっしゃい」と返して終わった。
 本を読み進めて30分くらいたっただろうか。
 向かいの席に誰かが座ってきた。
 「ねぇ、もしかして梨久君? 」
 「え? 」
 ビックリして顔を上げると同級生の女子が座っていた。
 「何してるの? 」
 「本、読んでんの」
 「それくらい見たら分かるよ。ねぇ梨久君、私が誰か分かる? 」
 「同じクラスの、」
 「同じクラスの? 」
 「ごめん名前分からない」
 「うん、だよね。清水菜々」
 しみず、なな...
 いわれてもあまりピンと来ないことに若干申し訳なさを覚える。
 「ねぇ、梨久君。暇でしょ」
 「いきなり失礼だね」
 「こないだ学校で言ってた。彼女いないみたいだし。私も暇なんだよね」
 ふーんと返す。興味があまり湧かなかったから。てゆうか図書館で普通こんなに喋るか? 
 「ねぇ梨久君、遊びに行こうよ」
 「は? 」
 「お願い、ママがさ私に友達いないんじゃないかって心配するんだよね。皆部活でさ」
 「いや、なんで僕なんだよ」
 「今偶然出会ったから? 」
 「理由になってないよ」
 「お願いだよ」
 チラッと周りを見る。ヒソヒソ話してるとは言え、絶対迷惑だ。話を長引かせるのは妥当じゃない。
 「分かったよ」
 ほぼため息でそう返事した。
 「ありがとう。じゃあ3日後の10時に最寄り駅集合ね」
 勝手に予定を立てて勝手に立ち去ってしまった。
 すぐにスマホが震える。
 クラスLINEから追加したみたいで清水菜々から3日後の予定が再度送られてきた。
 正直億劫だ。