「違います」

 女性教師の顔を真っ直ぐに睨んでそう答えたら、彼女は眉根を寄せて、おれのことをあからさまに軽蔑の目で見てきた。


「悪いことをしたら、正直に認めなさい」

 またもや決めつけるような言い方をしてくる彼女に腹が立った。そして、大人のくせに公平な判断をしてくれない彼女が嫌いだと思った。

 悪いことを正直に認めないといけないのは、おれじゃなくて、おれに責任をなすりつけて黙っている真犯人だ。

 周囲の席のやつらの顔を窺うようにさっと視線を動かせば、みんな、そろいもそろってうつむいて、教卓の女性教師と目を合わさないようにしている。

 客観的に考えてみれば、女性教師がおれを疑うのにも無理はない。

 おれの前後の席のやつらも、おれの隣の席の男子も、そいつの前後の席のやつらも、みんな見た目が真面目でおとなしそうで、カンニングなんてしそうにないのだ。

 でも、しそうにないからって、しないわけじゃないだろう。

 通り魔事件や放火事件が起きたとき、たいていの場合、容疑者を知るとかいう大人たちが「おとなしくて真面目そうな人でした……」ってコメントしてるじゃないか。