「昨日、初めて健吾くんに本気で怒られた。健吾くんは、わたしと家族になりたいから。わたしに健吾くんを家族として受け入れられるようになったら、帰ってくるって」
「本気だな、桜田先輩」
「うん、本気。完全にフラれた。今までのわたしの気持ちは、全部ムダだった。想ったらいけないものだった」
声に出して言葉にすると、ものすごく虚しくなってくる。
無理やり口角をあげて空笑いしたけど、箸を持つ手が震えてしまう。震える手をもう片方の手で押さえて、机に箸を置く。ふ、っと息を吐いて目を伏せると、那央くんがわたしの頭に手をのせた。
「前に岩瀬が言ってたみたいに、好きになった相手が同じように自分を好きになってくれるのって、奇跡みたいな可能性なんだよ。だけど、相手に想ってもらえなくても、岩瀬が桜田先輩を好きだった気持ちはムダじゃないし、想ったらいけないものでもないよ。桜田先輩だって、きっとそれはわかってくれてる」
優しく宥めてくれる那央くんの手も声も、あったかい。あんまりあったかいから、目と鼻からうっかり水分が溢れてきそうだ。