「那央くんは一人暮らしなんだよね。こないだも昼ごはんにコンビニのおにぎりとかサンドイッチ食べてたけど、朝とか夜はどうしてるの? 彼女が作りにきてくれるの?」
「自炊しようと試みたことはあるけど、片付けとか面倒でやめた。彼女だって実家暮らしだから、わざわざ作りには来ないよ。あんまり料理できないし」
「ふぅん。なんでも完璧にできそうな、綺麗な人だったじゃん」
わたしの母も、料理はあんまり得意じゃない。健吾くんは、わたしの作った料理を褒めてくれてたけど、彼が好きなのは母だ。健吾くんに好かれたくて料理の腕を磨いたけど、那央くんの話を聞いていると、それってあんまり意味のないことだったのかもしれない。
綺麗に巻いた卵焼きにグサッと箸を突き刺す。それを乱暴に口に運ぶ私を見て、那央くんが苦笑していた。
「どうした、今日は。なんか、やさぐれてんな。さては、昨日、ちゃんと謝れなかったんだろ」
図星を指されて、卵焼きの入った口をモゴモゴさせながら視線を泳がせる。
「やっぱり、そうなんだな。あれだけ、すぐ謝れって言ったのに」
「謝ろうと思ってたよ。でも、健吾くんが出て行くとか言うから……」
「岩瀬の代わりに、桜田先輩が家を飛び出しちゃったってこと? めちゃくちゃ拗れてんな」
呆れ顔の那央くんに、小さく頷く。