「那央くん。お昼、ここで一緒に食べてもいい?」

 遠慮がちに訊ねると、那央くんが訝しげに眉を寄せた。

「南は? いつもよく一緒にいる」
「唯葉のことは、今日は彼氏に譲った」
「それは、淋しいな。いいよ、ここで食べてけば?」

 実際には、唯葉が彼氏とお昼を食べるように仕向けたんだけど。何も知らない那央くんが、わたしに同情の眼差しを向けながら、机の端にスペースを空けてくれる。
 持ってきたカバンの中からお弁当箱を出して広げると、那央くんが興味深そうに覗き込んできた。

「お、岩瀬の弁当美味そうじゃん」
「でしょ?」

 得意げに顔を上げると、那央くんが驚いたように少し目を見開いた。

「そういう言い方するってことは、これ、岩瀬の手作り?」
「そうだよ。ちょっと前までは母子家庭だったし。うちのお母さん、看護師で夜勤にも入ってて忙しいから」
「へぇ。ちゃんとお母さんのこと助けてあげててエラいな」
「別に、普通だよ」
「そんなことないって。弁当作るのって、手間かかるし。お母さん、絶対助かってるよ」

 わたしにとってはあたりまえのことを大げさに褒めてくれる那央くんの声が、少しくすぐったい。

 那央くんが女子生徒にモテるのは、顔がいいからだけじゃなくて、こういうところなのだろう。那央くんはきっと、無自覚で、いろんな生徒に優しい言葉をかけているに違いない。