「沙里、どこ行くの?」

 四限目が終わってすぐに、カバンを持って教室を出て行こうとすると、唯葉に呼び止められた。

「購買だったら一緒に行こうよ。私も今日はお弁当持ってきてないんだ」

 財布を持った唯葉が、にこりと笑いかけてくる。その無邪気な笑顔を見つめながら、わたしは唯葉に本当のことを言うべきかどうか迷った。

 唯葉はわたしの母がうちの高校の元教師だった健吾くんと再婚したことを知っているし、以前、健吾くんが一緒に写っている写真が学校内の生徒たちにSNSで拡散されてしまったときも、相談にのってくれたし味方でいてくれた。

 でも、一番の友達である唯葉にも、わたしが健吾くんを好きだったことまでは話せていない。

 義理の父親になる人が好きで、実の母親に嫉妬めいた感情を抱いているなんて言えば、さすがの唯葉だってわたしから離れていくかもしれない。ここ数日間で起こった家族のもめごとや、そこに那央くんを巻き込んでしまったことも、唯葉には話せそうになかった。