「ただいま」
那央くんに送ってもらって家に帰ると、母と健吾くんが玄関まで走り出てきた。
健吾くんは、ネクタイこそ外しているものの、シャツとパンツは仕事着のままだ。帰宅して着替える暇もなく、わたしのことを探してくれていたのかもしれない。
さすがに迷惑をかけたことはわかるが、気まずくて素直に謝れない。那央くんには「帰ったらすぐに、心配かけたことを謝れ」と言われたのに。最初の一言を、どう切り出せばいいのかわからなかった。
玄関に突っ立ったまま、母と健吾くんから顔をそらすと、母が助けを求めるように健吾くんに視線を向けた。
「とりあえず、上がりなさい」
いつもなら、母も健吾くんも優しい声音で軽く注意してくるだけで、怒ったりしないし、わたしが家を飛び出した理由すら訊こうとしない。だけど、今日の健吾くんの口調は普段よりも厳しかった。わたしを見下ろす視線も、いつになく鋭いような気がする。
なんとなく逆らえる雰囲気ではなくて、健吾くんに言われるままに家に上がる。
「あ、の……」
まずは謝らないといけない。事情はどうであれ、わたしから。上目遣いに、母と健吾くんの顔色を窺う。
「今まで、どこで何してた? 葛城に見つからなくても、帰ってくるつもりだった?」
だけど、何か言う前に、健吾くんが厳しい口調でわたしを問いつめてきた。