「これからは、家を飛び出す前にちゃんと連絡してこい」

 ため息とともに聞こえてきた那央くんの声が、少し和らぐ。連絡してこいって、どういう……。

 考えていると、那央くんが自分のスマホをわたしのほうに差し出してきた。那央くんのスマホの画面には、メッセージアプリの連絡先を読み込むQRコードが表示されている。

「え、生徒に教えていいの?」

 驚いて顔をあげると、那央くんが困ったように眉根を寄せた。

「一応、うちの学校は絶対禁止ではなくて、事情があるときは教えてもいいらしい」
「そうなんだ」

 パッと目を輝かすと、那央くんの気が変わらないうちに、と、急いでスマホを取りだす。

「夜中に家を飛び出したくなったときだけ、かけてきていいよ」

 自分のスマホに読み取った那央くんの連絡先を見つめてニヤニヤしていると、那央くんがスマホをズボンの後ろポケットに入れながらそう言った。

「毎日かけちゃうかも」

 スマホを握りしめてふふっと笑うと、那央くんが顔をしかめる。

「一応、事情がある場合だけ教えていいって決まりだから。悪用はすんなよ」
「わかってるよ」
「じゃぁ、家まで送っていく。雨なのに悪いけど、歩きでいい? 今日は、車出せないんだ」

 連絡先を教えてもらって少し浮かれていたわたしは、那央くんの言葉に素直に頷いた。