「とりあえず、サンダルありがとな。岩瀬の靴は、確認して明日にでも持ってくるから」
「明日の昼休みに、ここに取りに来ていい?」
「いいよ。用事済んだなら、戻りな。おれ、これから昼メシ食うから」

 わたしから離れた那央くんが、机のそばに置いていたカバンの中からコンビニの買い物袋を取り出す。そこから、おにぎりや菓子パンやお茶を出すのを見ていたら、わたしもお腹が空いてきた。

「そういえば、わたしもお昼まだだった」
「早く食わないと昼休み終わるぞ」
「今から購買行ってくる」

 もう、売れ残りしかないだろうけど。

「那央くん、また明日」
「ちょっと待て、岩瀬」

 手を振って化学準備室を出ようとすると、那央くんがわたしを呼び止めた。

「まだ食ってないなら、早く言えよ。ツナマヨでいい?」

 わたしの手をとった那央くんが、そこにおにぎりをひとつ握らせる。

「これ、那央くんのごはんでしょ?」

 ぽかんと見上げると、那央くんが笑う。

「いいよ、一個やる。今から購買行ったって、どうせたいしたもの残ってないだろ」
「でも……」
「じゃぁ、一日遅れだけど誕生日プレゼントってことで」
「え、ショボい」

 ぷはっと吹き出すと、那央くんが「贅沢言うな」と顔を顰めた。

「明日は、ちゃんと昼メシ食ってから来いよ」

 ツナマヨおにぎりを持って化学準備室を出ようとするわたしに、那央くんが忠告してくる。

「わかってるよ」

 そう返すと、次の授業の準備のために教科書に視線を落とした那央くんの横顔を見つめながら、ゆっくりと化学準備室のドアを閉めた。