「これは?」
紙袋を覗いていた那央くんが、わたしがこっそりと入れておいた缶コーヒーに気付く。
「海に連れてってくれたお礼。急に押しかけたのに、ありがとう」
「どういたしまして。そういうことなら、ありがたくいただくわ」
那央くんが口端を引き上げながら、取り出した缶コーヒーのフタを開ける。
「温くなってないといいけど」
缶に口を付ける那央くんの横顔に向かってボソッとつぶやくと、彼が横目にわたしを見てきた。
「いや、充分冷たいよ。ところで、あのあと桜田先輩にはちゃんと怒られた?」
「怒られてないよ。謝られたけど。健吾くんは、わたしと家族になりたいっていうくせに、わたしが何をしても怒らない。昔からずっと優しいけど、本気なのはいつもわたしだけ」
ハハッと笑うと、那央くんがわたしの頭に手を置いて、上から雑に押してきた。
「え、何? 痛いんだけど」
「泣くのかと思って」
無理やり下を向かされたことに文句を言うと、那央くんがボソリとつぶやいた。
「何言ってんの? 泣くわけないじゃん」
「そう」
上目遣いに見ると、那央くんがわたしの頭をグシャリと撫でて笑う。その笑顔に、少しだけドキリとした。