「那央くん、それ天然?」
「何が?」
「理系に進みたい子が多いわけじゃなくて、質問を口実に那央くんにちょっとでも近付きたいって思ってる女子が多いからだよ」
指摘すると、那央くんが困った顔で口を噤んだ。
「那央くん、モテるくせに案外鈍いんだね」
「高校の教師って想像以上に生徒に懐かれるんだなーとは思ってたけど……質問があるって話しかけてくる生徒が恋愛対象として自分を見てるなんて普通考えないだろ」
「那央くんは高校生なんて子どもだって思ってるだろうけど、那央くんのことを真面目に好きな子だっていると思うよ」
わたしが、健吾くんのことを好きなみたいに。
さすがにそこまでは口にしなかったけれど、那央くんにも何か思うところがあったのかもしれない。それ以上、反論はしてこなかった。
「それで? 岩瀬は何でおれのこと待ってたの?」
「そうだった。これ、返したくて」
サンダルの入った紙袋を手渡すと、那央くんが「あぁ」と頷いた。
「そういえば、貸したままだったな」
「わたしの靴、助手席のシートに置いたままだったでしょ」
「そうなんだ。気付かなかった」
「気付いてよ。そのまま彼女のこと車に乗せたら、修羅場になるよ」
「いや、ならないよ」
那央くんが紙袋を覗き込みながら、吹き出す。
笑ってはっきりと言い切れる那央くんと彼女のあいだには、どれほど強い絆があるのだろう。少し羨ましかった。