化学準備室のドアに後頭部をコツンとぶつけて、窓の向こうの空を眺める。学校の上空は晴れているが、遠くのほうに薄らと黒雲がかかっていた。そういえば、今朝家を出る前に見た天気予報で、夜にかけて雨が降ると言っていたような気がする。

 ぼんやり外を見ていると、スカートのポケットの中でスマホが鳴った。取り出してみると、唯葉から『お昼どうするのー?』というメッセージが届いていた。

 お昼、どうしようかな。今日はお弁当も持ってきていない。

「あれ、岩瀬?」

 スマホを手に考えていると、横から声をかけられる。すっかり気を抜いていたところに那央くんの声が聞こえてきて、スマホを落としそうになった。

「いたんだ、那央くん」
「いたら悪いか?」

 黒のスラックスのポケットから鍵を取り出した那央くんが、わたしを横目に見下ろしてくる。

「悪くない。待ってたんだよ、那央くんのこと。授業長引いたの?」
「いや、もうすぐ中間テストあるだろ。それで、授業後に質問があるからって生徒に捕まってた」

 教科書とチョークの箱を小脇に挟みなおしながら、那央くんが化学準備室の鍵を開ける。

「女子ばっかりだったでしょ」

 化学準備室の中に入っていく那央くんの背中に訊ねると、彼が机に教科書を置きながら振り向いた。

「そう言えば、女子が多かったかもな。あのクラス、理系に進みたいやつが多いのかな」

 那央くんが大真面目に言うから、笑ってしまった。