初めの約束どおり、那央くんは日付が変わる前に海を出て、わたしを家まで送ってくれた。

 事前に連絡でも入れておいてくれたのか、那央くんの車がマンション下に停まるとすぐに、健吾くんがエントランスのドアから出てきた。

「ありがとう……」

 お礼を言って助手席のドアに手をかけると、那央くんが「どーいたしまして」と笑う。

「桜田先輩は、岩瀬のこともちゃんと想ってると思うよ。岩瀬が本当に求めてるものとは少し違うのかもしれないけど」

 車を降りる間際、那央くんがエントランスのドアの前に立った健吾くんをフォローするみたいに言ってくる。

 那央くんはわたしの気持ちを理解してくれたけど、大人だし健吾くんの後輩でもあるから。ちゃんと健吾くん側の気持ちも代弁する。

「知ってるよ」

 振り向いて頷くと那央くんが複雑そうに表情を歪め、それから、わたしを待っている健吾くんに会釈した。

「ありがとう、葛城」
「いえ。それじゃ、また」

 那央くんの車が行ってしまうと、わたしと健吾くんの間に微妙な空気が流れ始める。