「ありがとう。わたしはもう大丈夫だから、唯葉は今すぐ先輩のところに行きなよ」
「うん、でも、先輩はゆっくりでいいって言ってくれてるから、駅までは沙里と帰るよ」
「いいの? きっと先輩のことだから、待たせてるあいだに何人かの女の子に声かけられてるよ?」
「その可能性は高いけど……。でも先輩は、ちゃんと断ってくれてると思う」
わたしが冗談半分、本気半分でそう言うと、唯葉がほんの少し頬をひきつらせた。
唯葉の彼氏は、なんとなく中性的な雰囲気があるかっこいい人で。カフェやファーストフード店の椅子にひとりで座っているだけで女の子が引き寄せられるように近付いてくる。
デートのとき、唯葉が彼氏との待ち合わせ場所に数分でも遅刻していくと、大抵の場合、知らない女の子に逆ナンされているらしい。
唯葉の彼氏はクールで口数の少ないタイプだから、知らない女の子に絡まれても冷たい態度で断っているみたいだけど。それでも、彼氏が他の女の子に声をかけられるのは心配だろう。
「とりあえず、駅まで急ごうか」
「うん、ありがとう」
助けてもらった分の埋め合わせにもならないけれど、唯葉の腕を引っ張って帰路を急ぐ。
「また明日。デート、楽しんできてね」
「うん、明日ね」
駅前で唯葉と別れてから時間を確かめると、既に夕方の四時半を過ぎていた。
化学準備室に三十分も拘束されたせいで帰宅時間が大幅に遅れてしまったけれど、今から地元の駅に戻ってそのままスーパーに寄れば、特売の時間にギリギリ間に合う。
今日の夕飯は何を作ろうかな。
スマホでレシピ検索をしていると、画面の上にSNSのDM受信の通知が届いた。
深く考えずにそれを確認したわたしの眉間に、僅かにシワが寄る。捨てアカで送られてきたらしいDMには、わたしの悪口が書かれてあった。