「岩瀬もこの人の曲、よく聴くんだ?」
「うん、わりと。全部好きだけど、最近出したこの曲が一番好きかな」
「いい曲だよな」
「この曲ね、ある約束をしたまま、突然好きな人に会えなくなってしまったっていう彼の実話が元になってるんだって。会えなくなった大切な人がどこかで聴いてくれていることを願って、気持ちを届けてるんだって。配信で言ってた」
「へぇー」
「わたしもこんなふうに、自分のことをすごく好きになってくれる人に出会いたかったな」
「何言ってんだ。岩瀬はまだまだこれからだろ」

 那央くんが、ふ、っと、少しだけ唇の端を引き上げる。その横顔が、わたしのことを「子どもだ」とからかっているような気がして胸がザラつく。

 これから、なのかな。健吾くんも那央くんも、わたしの『今』がどれだけ真剣なのか全然わかってない。

 無言で、オーディオの音量をあげる。わたしは海に着くまで、流れてくる音楽に浸っているフリをした。