「健吾くん……? あぁ、桜田先輩のことか」
「うん」
「うーん、とくには。気を付けて行ってこいっていうことと、岩瀬をよろしくっていうことくらいかな」
「そっか」
健吾くんは案外あっさりとわたしのことを那央くんに任せたんだな。軽くショックを受けてうつむいていると、那央くんがわたしのことを横目に窺いながら話しかけてきた。
「なんか音楽かける?」
「え、うん」
咄嗟に頷いたとき、ちょうど赤信号で車が止まった。
「スマホをオーディオに繋いでるから、好きな曲かけていいよ」
那央くんが信号に視線を向けたまま、オーディオの下の物入れから取り出したスマホのパスコードを解除する。そこからわたしが使っているのと同じ音楽アプリを開くと、横流しに手渡してきた。
「ありがとう。那央くんはどんな曲聞くの?」
「おれは、そのプレイリストに入れてるやつを適当に。でも、岩瀬が好きなやつ探してかけていいよ」
見たらダメとは言われなかったので、興味本位で那央くんのプレイリストを覗く。
そこには最近のヒット曲に混じって、数年前のヒット曲やわたしがよく知らないアーティストの曲が入れられていた。その選曲を見て、那央くんはノリのいいアップテンポの曲よりもバラードっぽい曲のほうが好みなのかな、と思う。