「ねぇ那央くん。どっか連れてってくれるなら、ファミレスじゃなくて海がいいな」
「海?」
「うん、海。実はね、今日、わたしの誕生日なんだ」
「おめでとう。だけど、一緒にコース料理を食べてきた彼氏を差し置いて、おれなんかと海に行って大丈夫なのか?」
「一緒にお祝いしてくれた人は、彼氏ではないから」

 那央くんから視線をはずしながら答えると、彼が綺麗な顔を複雑そうに歪めた。

「それって、岩瀬が家に帰りたくない理由と何か関係ある?」

 真面目な顔で訊ねてくる彼は、きっとまた、見当違いなことを考えているんだろう。
 わたしは彼を見つめて首を傾げると、曖昧に笑った。