「岩瀬の言うとおり、おれは公正だから。無理に家には送り返さないけど、岩瀬が今おれと一緒にいることは桜田先輩に伝えるよ。どんなケンカしたのかは知らないけど、また何も言わずに飛び出して来たんだろ?」

 答える代わりに唇を真横に引き結ぶと、那央くんが指で眉間を指でさすりながら困ったように首を傾げた。

「で、今からどうする? ずっとここにいるわけにもいかないし。ファミレスでも行って時間潰すか?」
「お腹は空いてないよ。さっき、コース料理食べてきたとこだから」
「コース料理? あぁ、だから見慣れない格好してたのか」
「似合わないって言いたい?」

 ムスッと顔をしかめると、那央くんがますます困ったように眉間を擦る。

「そうじゃないけど。妙に背伸びした、大人ぶった格好してんな、とは思った。まぁ、岩瀬は元々同世代の女子よりも大人っぽく見えるけどな」
「フォロー、ありがとうございます」

 全く感情のこもっていない声でお礼を言うと、那央くんがふ、っと笑った。

「あ、もしかしてお前。彼氏とのデートの帰りが遅くなって、桜田先輩に怒られたのか?」
「違います」

 まるで見当違いな那央くんの推理を即答で跳ね除けると、彼の笑顔が苦笑いに変わる。

 どうせ、わかりにくいって思ってるんだろうな。わたしと違って、わかりやすく困っている那央くんの手を引っ張って、一緒に立ち上がるように促す。