「ごめんなさい……」
素直に謝ると、那央くんが拍子抜けしたようにわたしを見つめて、頭に載せた手をおろす。
「で? 何があった?」
「健……、またすぐに義父に連絡する?」
優しく声をかけてくれた那央くんに不安げに問い返すと、彼が怪訝な顔をした。
「んー、場合によっては。ていうか、桜田先輩となんかあったの?」
「ちょっと、ケンカしたっていうか。気まずいっていうか。今は、家に帰りたくなくて……」
「それで、ここに来たんだ。だったら、会えるかどうかもわかんないおれより、連絡先のわかる友達に頼るほうが確かだっただろ」
那央くんに呆れ顔で言われて、少し悲しくなった。
わたしだって、初めは唯葉を頼るつもりだった。だけど、連絡がつかなくて。その次に思い浮かんだ顔は、那央くん以外にいなかった。
「何かあれば頼れ」と言ってきたのは那央くんのほうなのに。いざとなったら突き放すなんて、なんだか裏切られた気分だ。
「あんまり友達いないんです。先生に言われたことを真に受けて、のこのこ来たりしてすみません」
抑揚のない声でそう言って立ち上がろうとすると、那央くんに手首をつかまれた。
「ちょっと待て。別に、帰れって言いたかったわけじゃない」
「でも、迷惑だったんでしょ」
「迷惑でもないよ。ただ、どうしておれだったのかな、ってちょっと不思議だっただけ。桜田先輩と繋がりのあるおれのところに逃げてきたって、帰りたくない家にむりやり連れて帰られるだけかもしれないのに」
「那央くんは、公正な気がするから」
ボソリとそう言うと、「また、この前の平等の話の続き?」と、那央くんが笑った。