「どうせ、また家から抜け出してきたんだろ。こないだも、授業サボって抜け出してたし。お前、逃走癖あるよな」
「違う!」

 咄嗟に大きな声を出すと、那央くんが驚いたように瞬きをして目を見開いた。

「わたしはただ、那央くんが何かあれば頼ってきていいって言うから、それで……」

 言い訳しているうちに恥ずかしくなって、言葉が尻すぼみになる。

「何かあれば、ちょっとくらいは頼ってきな」という言葉を真に受けてここまで来てしまったけれど、彼は生徒に慕われているし、女子生徒にモテるのだ。

 わたし以外にも困っている生徒がいれば、同じような言葉をかけているだろう。だとしたら、とんだ勘違い生徒だ。

 口を閉ざして項垂れていると、頭上から那央くんのため息が落ちてくる。

 迷惑だ、って呆れられているんだろうな。ますます項垂れていると、那央くんがわたしの頭に手を載せて、ぐしゃっと髪を撫でてきた。

「たまたま会えたからいいけど。もしおれが来なかったらどうするつもりだったんだよ」
「それ、は……、あんまり考えてなかった」
「考えろよ。夜遅くに女の子がひとりで彷徨いてたら危ないだろ」

 ちらっと視線をあげると、眉をしかめた那央くんと目が合う。その瞳は呆れたようにわたしを見下ろしていたけれど、迷惑そうではない。それどころか、わたしのことを気にかけてくれているように見えた。