放課後、生徒指導の三上先生に腕を取られて指導室に連行されそうになるわたしを見て慌てた唯葉が、助けを求めてくれたのが、たまたまそばを通りかかった葛城先生。だけど、残念ながら人選ミスだ。
「おれに任せてもらってもいいですか?」なんて、かっこいいことを言って三上先生から攫ってくれたところまではよかったけれど。いざ正面から向き合うと、十六歳の女の子から本音を引き出すこともできない。
「そろそろ帰っていいですか? あまり遅くなると心配するので。義父、が」
最後の一言をわざとらしく協調して、余所行きの顔でにこりと笑う。
「だから、どうしてそれを生徒指導の三上先生にもちゃんと話さなかったんだ? 桜田先生が別の学校に移ったのだって、岩瀬のためだろ?」
「さぁ? 知りません。頼んだ覚えもないですし」
完璧に作った笑顔で拒絶の意志を示すと、葛城先生が何か言いたげに唇を震わせた。
「それじゃぁ、これで失礼します」
椅子から立ち上がると、葛城先生に向かって表面上だけは丁寧にお辞儀する。
「とりあえず、岩瀬が桜田先生の義理の娘だってことは俺から三上先生に説明しとくから」
乱暴に化学準備室のドアを開けて出て行こうとしたとき、葛城先生が背中から声をかけてきた。
だから、「誤解されているほうが都合がいい」って言ったのに。ありがた迷惑な申し出に心の中で舌打ちしたい気持ちになる。
だけど、実際にはそうせずに立ち止まって、葛城先生のことを振り返った。