「那央くんで頼りになるかなー」
ほかの女子生徒が葛城先生を呼ぶときの呼び方を真似て、ふっと息を吐くと、彼が顔をしかめた。
「その呼び方やめろよな。おれ、いちおう教師なんだけど」
「なんで? 可愛いじゃないですか」
「おとなの男をつかまえて、可愛いはないだろ。岩瀬も本当はおれのこと舐めてたんだな。今、わかった」
ほとんどの生徒が葛城先生のことを慕って「那央くん」と呼んでいるけど、彼からしてみれば不服らしい。唇を尖らせた葛城先生の横顔が、ほんとうに少し可愛いと思った。
「舐めてないですよ。むしろ、他の先生よりは信用してます」
「ふーん」
葛城先生が疑わしげな目で、斜め上から見下ろしてくる。
「だから、ここでサボってたことは、担任や義父には秘密にしといてください」
「別に、ちょっと授業サボってたくらいで誰にもチクらないよ。そんな気分の日もあるだろ」
「結構、寛容なんですね」
「まぁね。でも、もしおれの授業サボったら、そのときはたっぷり課題出すから」
「うわ、横暴」
わざとらしく顔をしかめると、葛城先生が笑う。