「なんだ、じゃない。今、授業中だろ。こんなとこでサボってていいのか?」
「サボりじゃなくて、自主的に自習してました」
「なんだそれ」
テーブルの上に置いていた文庫本を持ち上げて見せると、葛城先生が怪訝な顔をする。わたしが持っている文庫本は、一七〇〇年代の西洋の思想家の著書だった。
「人間はみんな、平等であるべきなんだそうです」
唐突にそんなことを口にしたわたしを見つめて、葛城先生が「ん?」と首を傾げる。
「ひとつ前が、倫理の授業だったんです。今日の授業で、『人間は生まれながらにして平等だ』って説いた人がいるって聞いて。それからずっと、平等について考えてました」
「平等?」
「そう。平等です。それでその人のことが気になって、教科書に載ってたタイトルの著書を探して読もうとしてみたんですけど……。普段あんまり本なんて読まないから、最初っから内容が全く頭に入ってこなくって。本題に行き着く前に、挫折しました」
「なるほど」
葛城先生が、わたしから文庫本を取り上げて、ぱらぱらとページを捲る。それから唇の片側だけひきあげると、くくっと控えめに笑った。
「たしかに、女子高生好みの本ではないかもな」
「好みからは大きく逸れてましたね」
文庫本を返してくる葛城先生を見上げてそう言うと、彼が緩く結んだ右手を口元にあてながら、また、くくっと笑う。さっきよりもわかりやすく目を細めて笑う彼の表情が、わたしの心を惹きつける。
葛城先生の笑う顔をジッと見つめていると、彼がテーブルに片手をついて、わたしの目を覗き込むように見てきた。