図書室の一番窓際の席を選んで座ると、本棚から持ってきた黄ばんだ文庫本を開く。手に取ったときは読破する意欲しかなかったのに、古びた本の匂いと読みにくい翻訳文のせいで、すぐにやる気が削がれた。

 二ページも読まないうちに文庫本を閉じると、陽当たりの良いテーブルに腕を伸ばして伏せる。

 片側の頬をテーブルにくっつけると、太陽の光でちょうどよく温められたテーブルの熱が伝わってきた。

 特に読書家なわけでもないわたしは、これまで本屋にも図書室にもあまり縁がなかった。今まで知らなかったけど、授業中の図書室というのは静かでものすごく居心地がいい。

 静寂と陽だまりの心地よさに、ついウトウトと瞼を閉じかけたとき、頭の横にコンッと何か固いものがぶつかった。


「こんなところで、何してんだ?」

 微睡みのなか、紛れ込んできた低い声にハッとして目を覚ます。顔をあげると、葛城先生がテーブルの向こう側に立って、呆れ顔でわたしを見下ろしていた。


「なんだ、葛城先生か……」

 見つかったのが担任や生徒指導の先生ではなくて、葛城先生でよかった。つい本音を漏らすと、葛城先生が気を悪くしたように表情を歪めた。