「葛城先生、今日はいろいろとありがとうございます」
お礼を言うと、葛城先生がスマホから顔をあげて、驚いたように目を見開いた。
「どうした、急に。放課後だって、コンビニの前で俺が声をかけたときだって、すげー迷惑そうな顔してたくせに」
「そうなんですけど。本当は全部、ただの八つ当たりだってわかってるので」
「なんだそれ。ほんと、わかりにくいよな。最近の高校生って。俺が年取ったのか」
葛城先生が口元に手をあてて、ふふっと笑う。その一瞬、彼の素の表情が垣間見えたような気がして僅かに胸がざわついた。
「年取ったって。葛城先生、うちの高校で一番若いでしょ」
「若いって言ったって、もう二十七だしな。高校生から見たら、おっさんだろ」
「でも、葛城先生、女子生徒からすごい人気あるでしょ。みんなから、那央くんて呼ばれてる」
「いや、非常勤だし、新人だから舐められてるんだよ」
葛城先生が、わたしのほうを向いて顔をしかめる。
「それだけじゃないと思うけど……」
ボソリとつぶやいたとき、葛城先生のスマホの通知音が鳴って会話が途切れた。
スマホを触る葛城先生の隣を黙って歩いていると、そのうち自宅のマンションが見えてくる。