「そうだよ。大学院に残って研究してた俺に、今の高校の非常勤の職を紹介してくれたのも桜田先輩」
「へぇ。仲良かったんですね」
「うーん、まぁ。結婚式に呼んでもらえるくらいには、可愛がってもらってたかな。だから、岩瀬が桜田先輩の娘だってことも知ってたよ」
「結婚式、出席してくれてたんだ……」
「うん。そういえば、新郎側のゲストは桜田先輩の大学時代の関係者ばっかりだったな」

 葛城先生の言葉に、わたしは無言で頷いた。

 母と健吾くんが再婚したのは、半年前のことだ。

 ふたりは親族と仲の良い友人だけをゲストに呼んで、形式ばかりの簡素な結婚式を挙げた。

 そのとき、葛城先生はまだうちの高校の非常勤講師ではなかった。

 顔立ちの整った人だから、ゲストのなかにいたのなら見覚えくらいあってもよさそうなものなのに。本人に言われるまで全く気が付かなかった。
 
 裏を返せば、わたしは健吾くんのことしか見ていなかったということなのだろう。

 結婚式の日、黒のタキシードを着て母の隣に立っていた健吾くんはとてもかっこよかった。

 あのときだって、健吾くんに熱い眼差しを送られて幸せそうに微笑んでいる母のことが羨ましかった。

 母のことは大好きだし、母の幸せを願いたいのに、健吾くんとの結婚を心の底から喜べないことに自己嫌悪した覚えがある。