「何があったのか知らないけど、黙って家を飛び出すのはやめとけよ」

 嘘を吐いたのは良くなかったと思うけれど、何も知らない葛城先生にわかったような口調で諭されるのは癪に障る。

 愛想のない声で「わかってます」と返すと、隣を歩く彼が乾いた声で笑った。


「いや、ほんとに。黙って飛び出して、あとで後悔したって、取り返しがつかないから」
「まるで経験者みたいに語りますね」
「うん、まぁ。そうだね」

 葛城先生が、足元に視線を落として苦笑いする。その表情が少し気になりはしたけれど、だからと言って突っ込んで話を聞きたいと思うほどの興味はなかった。

 大人にはきっと、高校生のわたしなんかが知りえないような経験だってあるのだろう。


「そういえば、葛城先生って健吾く——、いえ。義父《ちち》の大学時代の後輩なんですよね?」

 訊ねると、葛城先生がスマホを触りながら頷いた。