「別に。連絡されて困るような事情なんてありません」

 仕方なくそう返すと、葛城先生がふっと表情を緩めた。

「そう。だったら帰ろう」

 葛城先生がスマホを触りながら、わたしを促して歩き出す。葛城先生の後ろをついて歩いていると、しばらくして彼が立ち止まってわたしにスマホの画面を見せてきた。


「岩瀬、俺に嘘ついたな。やっぱり、親に何も言わずに出てきたんじゃねーか。家にスマホ置きっぱなしで連絡もつかないから心配してた、って桜田先輩が言ってるけど」

 葛城先生に見せられたのは、健吾くんとやり取りしているラインのトーク画面だった。慌てて返信を打ってくれたのか、文章の一部に誤字がある。

 もちろん健吾くんは、お風呂上りに黙って家を飛び出したわたしのことを心配してくれたのだろうけど……。

 葛城先生に宛てて送られたラインには、『奥さんが特に心配してたから、助かった。ありがとう!』と書かれていて、少し複雑な気持ちになった。