夕夏の墓参りの帰り道。高速を走っている途中で、突然夕立が降り始めた。ぽつぽつと落ちてきた雨は、すぐに豪雨に変わり、フロントガラスに流れる雨水で視界が悪くなる。

 さっきまであんなに晴れていたのに。帰り際に空に浮かび始めていた入道雲が、急な雨を運んできたらしい。予定外のできごとに、ドキドキしながらハンドルをきつく握りしめる。数キロ先にあるサービスエリアの看板に気付いたおれは、そこまでなんとか頑張ろうと気を引き締めた。

 雨の日の運転はだいぶ平気になったはずなのに。こんなふうに予定外に降られたときは、やっぱりまだ動揺してしまう。

 しばらく車を走らせると、目の前にサービスエリアに入る別れ道が見えてくる。息を吐きながら指示機を出してスピードを緩めたとき、助手席にベージュのテディベアが座っていることに気が付いた。

 そうか。焦らなくても、こいつが一緒だった。
 
 そのことに気付くと、次第に気持ちが落ち着いてくる。サービスエリアの駐車場を徐行しながら、空いている場所を探す。車を止めて、エンジンを切ったときには、すっかり気持ちが落ち着いていた。

「たしかに、気が紛れるな」

 少し間抜けな顔で首を傾げているテディベアの頭に手をのせて、ククッと笑う。

 フロントガラスに打ちつける雨は、さっきよりも少しおさまったものの、まだやみそうにない。

 助手席のテディベアの首元を掴んで膝にのせてしばらく逡巡したのち、おれは彼女に電話をかけた。

 お互いに連絡先を交換したけれど、おれも彼女も滅多なことがない限る電話はかけない。そのせいか、彼女は電話に出なかった。なんとなくガッカリした気持ちになって、膝の上のテディベアを押しつぶすように腕に抱く。

 雨がやむまでの暇潰しに、と、スマホで音楽を再生しようとしたとき、彼女から折り返しの電話がかかってきた。