「いいんだよ。夕夏にはもう報告した」
「新しく好きな子できた、って?」
「うーん、まぁ、そんな感じかな」
「本気じゃん」

 夏乃がからかうように笑って、おれの腕を肘で軽く小突いてくる。

「うん」

 《あの子》は、恋なんてどうせ不平等だと思っているから。好きになった人が自分を好きになってくれる可能性なんて、世界の数パーセントだけが起こせる奇跡だって思っているから。もしこの先も《あの子》の隣にいることが許されるなら、おれが彼女の奇跡になりたい。

 おれは夏乃に微笑みかけると、夕夏の墓前で彼女と最後の握手した。ありがとうと、さよならの気持ちを込めて。