「もう、おれ、桜田先輩に殴られる覚悟決めるわ」
「どういう意味?」
「岩瀬が、身代わりのクマを託して逃げようとするからだろ。おれはクマじゃなくて、これからも隣に座ってる岩瀬の下手な歌が聞きたい」

 照れ臭そうに少し目を伏せた那央くんの言葉に、期待と不安で心臓がドクドクと鳴る。

 近付こうとすれば、いつも引かれてしまっていた境界線。絶対に恋になるはずのない距離。もしわたしの勘違いでなければ、那央くんは今、それを縮めようとしてくれている。

「那央くんがここからいなくなっても、また会える?」

 はっきりと確かめるのが怖くて少し遠回しに訊ねると、那央くんがふっと息を漏らして微笑んだ。

「そうだな。とりあえず今年はちゃんと勉強頑張って、まずは大学生になって」
「うん、待ってて」

 にこっと笑いかけると、那央くんが微妙にわたしから視線をはずしながら、ぽんっと頭を撫でてくれた。

 那央くんの手のひらの温もりに触れながら、早く大人になりたいと思う。

 彼との距離が縮まって、それがいつか恋になるように。