「あなたがそんなふうに責めるから、那央くんは何も言えないんじゃないですか? うまくいかなくて苦しいのは、あなただけじゃないでしょ」
「な、に……」
「あなたも責めるばっかりじゃなくて、那央くんの話をちゃんと聞いてあげてください。那央くんに、これ以上哀しそうな顔させないで!」
「岩瀬、もういいから……」
「でも……!」

 那央くんが、感情的に叫んだわたしの肩をぽんぽんっと優しく叩く。それを見て何か言いたげに頬を引き攣らせた夏乃さんだったけれど、やがて唇を噛むとわたしと那央くんを押し退けて、走って行ってしまった。

「追いかけなくていいの?」

 駅のほうに駆けていく夏乃さんの背中を茫然と見つめている那央くんに問いかける。

 那央くんはしばらくじっと考えるように黙り込んだあと、途方に暮れた顔で振り向いた。

「追いかけたほうがいいのかな。なんかもう、よくわかんないんだよ。岩瀬はどうしたらいいと思う?」
「え?」

 那央くんに心許なさげな目で見つめられて、反応に困る。

 わたしは那央くんのことが好きだから。本音が言えない彼女との恋なんて、いつか破綻するに決まってるって思うから。一方的に那央くんの責めて逃げて行った彼女のことなんて、ほうっておけばいいと思う。

 だけど那央くんが夏乃さんとの関係を終わらせたくないなら、追いかけたほうがいい。

 葛藤の末、何も答えられないままに眉を下げると、那央くんが自嘲気味に笑った。