「これ……」
「寒いから、身体冷えてるだろ」
「うん、ありがとう」
「そろそろ寒くなってきたから、待っててくれるなら室内にいて。特に雨の日は冷えるし。三年のやつらに勉強教えながら、風邪ひかせないか気がかりでしょうがない」

 那央くんが僅かに眉を寄せながら、わたしの頭に手をのせる。

「うわ、髪の毛まで冷てぇな」

 顔をしかめながらグシャグシャとわたしの髪を触る那央くんの手も、凍えた指先をじんわりと溶かしていくカフェオレも温かい。迷惑がられたわけじゃないことがわかって、ほっとするのと同時に、心臓が押し潰されたみたいにギュッとした。

「待たせて悪かったな。帰るか」

 お昼過ぎから降り始めた雨は、今はもうほぼやんで、傘も必要がないくらいだ。それなのに、車のロックを開けた那央くんが、あたりまえみたいにわたしを助手席に乗せてくれる。

 運転席に座った那央くんが、フロントガラスについた水滴をワイパーではらう。最近の那央くんは、小雨程度では震えなくなった。フロントガラスを打つ雨を、虚ろな目で見つめることもなくなった。

 わたしが助手席でシートベルトを締めて、スマホで音楽を再生すると、晴れた日と変わらない様子で。何の躊躇いもなく、アクセルを踏み込んで車を発進させる。

「今日は歌わないの?」

 いつもかけている男性アーティストのバラードを再生して、那央くんの整った綺麗な横顔をぼんやり眺めていると、彼がわたしを横目に見ながら問いかけてきた。