凍える指先に、ハーッと息を吹きかける。唇から溢れた白い吐息が、細く流れて夕暮れの空気と溶けた。

 学校の駐輪場の屋根の下。細かな霧雨を見つめながら、わたしは小さく身体を震わせた。

 少し前までは、これほど寒くなかったのに。月が変わった途端に冬がやってきたのか、急に気温が低くなった。特に雨が降ったあとの放課後は、手先の感覚がなくなるほどに寒い。

 これから、手袋とカイロを持ってこようかな。もう一度手の指に息を吐きかけながら、制服のスカートの下から剥き出しになっている膝を擦り合わせる。

 午後の授業が終わって教室を出てから、かれこれ二時間。少しずつ弱まっていく雨を眺めながら駐輪場で待っているが、那央くんはまだやってきそうもない。

 二学期の半ばを過ぎた頃から、那央くんを訪ねて放課後の化学準備室にくる三年生が増えた。それも、性別問わず。

 受験が近付いて本格的に危機感を覚えた三年生たちが、那央くんのところに質問にきているらしい。

 あまりに毎日いろんな生徒がやってくるから、那央くんはついに三年生のために放課後の化学準備室を開放した。そのせいもあって、最近の那央くんは晴れだろうが、雨だろうが、化学準備室に足止めをくらい、なかなか学校を出られない。

 質問に来ている三年生たちのいる化学準備室に乗り込むわけにもいかないから、雨の日はいつも駐輪場で那央くんを待っている。