「あれ、岩瀬?」

 わたしが先に見つけるつもりだったのに。駐輪場の隅で蹲るわたしに気付いてくれたのは、那央くんだった。

「おまえ、こんなところで何してんの?」

 薄闇の向こうから現れた那央くんが、驚いたようにわたしのそばに駆け寄ってくる。この時間帯にはやむ予定だった雨は、まだぽつぽつと降っていて、那央くんの差した大きな黒い傘を濡らしていた。

 ほら、やっぱり。雨は完全にはやまなかった。
 ぼんやりと見上げると、那央くんが困ったように首の後ろを撫でる。

「もう最終下校の時間もすぎてるのに、こんなとこで何してんだ? おまえ、部活やってるんだっけ? だとしても、こんな時間まで残ってるとかおかしいだろ。ずっと雨降ってたし、外真っ暗だぞ」

 膝をついてしゃがんだ那央くんが、駐輪場の地面に座り込むわたしに手を差し伸べる。

「もう大丈夫なのかと思ってたけど、また何かあったのか?」

 首を傾げた那央くんの黒髪が揺れる。切長の綺麗な瞳が、わたしの顔を覗き込むようにジッと見てくるから、雨で冷えた身体が一気に火照った。

 那央くんは健吾くんとのことを心配してくれているのだろうけど。それは違う。

 少し前まで、わたしの頭の中は健吾くんのことでいっぱいだったのに。今、わたしの頭を支配しているのは、大半が那央くんのことなのだ。

「なぁ、岩瀬。本当にどうした?」

 ひさしぶりに近付いた那央くんとの距離に鼓動を高鳴らせていると、彼が訝しそうに首を傾げる。あまり近付かれると、顔が赤いことや心音が速いことがバレてしまいそうだ。