その日の放課後。天気予報通り、雨が降り始めた。
「沙里、帰ろう」
唯葉に誘われて教室を出たわたしは、昇降口を出たところで空を見上げて立ち止まる。
「雨、嫌だねー。地味に駅まで遠いし」
スクールバッグから折り畳み傘を出しながら、唯葉がぼやく。
「沙里、今日時間ある? ちょっとだけ付き合ってほしいところがあるんだけど——」
唯葉が隣でずっと話しかけてきていたけれど、空から落ちてくる雨を見つめていたわたしは、彼女の話をまるで聞いていなかった。
「さーりっ! どうしたの、さっきからずっとぼーっとして」
唯葉に耳元で大きな声で呼ばれて、ハッとする。
「沙里ってば、わたしの話聞いてくれてた?」
「ごめん、何の話だっけ?」
「この頃、しょっちゅううわの空だよね。何か悩みごと?」
折り畳み傘の柄を伸ばして空にかざしながら、唯葉がわたしの顔を覗き込んでくる。
「桜田先生とのウワサが広まったときに来てた嫌がらせのDMだって、最近はほとんど収まってるんだよね?」
「あー、うん。それは大丈夫」
未だに健吾くんとのウワサのせいでわたしが嫌がらせを受けたことを気にしてくれている唯葉は、少し心配そうだ。
唯葉に笑いかけてから、また空を見上げる。
那央くんは、今日は何で通勤してきたのかな。朝晴れていたから、車……。それとも、夕方の雨予報を見越して電車かな。
那央くんの秘密を知ったあの日以来、雨が降ると彼のことを考えてしまう。雨を見つめて青ざめる那央くんの横顔が頭を過って、すぐにでも駆けだしたい衝動に駆られる。