授業の合間の休み時間。廊下から賑やかな声が聞こえてきた。机で頬杖をつきながら、声のするほうへ顔を向けると、他のクラスの女子数人に囲まれた那央くんが、わたしの教室の前の廊下を通り過ぎていくところだった。

 那央くんを取り囲む女子たちは、跳ねるように歩きながら、楽しそうに彼に戯れついている。苦笑いを浮かべている那央くんだけど、彼女たちのことを嫌がったり邪険に扱ったりはしない。大人な目で、彼女たちのことを微笑ましげに見下ろしている。

 少しの打算と無邪気さで那央くんに纏わりついている女子たちのことを、羨ましく思う。わたしには、彼女たちみたいに人前で堂々と那央くんに絡みにいく度胸がない。

 化学準備室に勉強を教わりに来ていた三年生の女子たちもそうだけど、深刻さを気付かせないくらい軽く好意を表せたほうが、那央くんを困らせずに済むのだろう。

 あたりまえだけど、那央くんは教室から彼の横顔を眺めているわたしの存在には気付かない。今、彼にじゃれついている他のクラスの女子達も、三年生の女子も、わたしも、那央くんにとってはみんな同じ。生徒のうちのひとりだから。

 那央くんが通り過ぎていくのを見送ってから、教室の窓の向こうに視線を向ける。

 朝から晴れていたはずの空には、薄っすらと雲がかかり始めている。気になって、スマホで天気予報を確かめる。予報は、夕方から夜にかけて雨だった。