わたしにはすぐにそれがわかったのに、肝心なところで鈍い那央くんは、三年生の女子たちに快く笑顔を返していた。

「お前ら、受験生だもんなー。いいよ、来ても。できる範囲内でなら力になるから」
「ありがとう、那央くん」

 三年生の女子たちのテンションが上がる。彼女たちの嬉しそうな声を聞きながら、わたしは化学準備室のドアを蹴飛ばしたくなるのをなんとか我慢した。

 那央くんのバカ。そんなの、断っちゃえばいいのに。心の中でそう思うけど、彼がどの生徒にも公正なことはわたしが一番よく知っていた。

 那央くんの秘密を知っているからって、わたしが彼の特別になれるわけじゃない。先生と生徒の距離は、変わらない。

 那央くんに近付こうとしている三年生の女子たちだって、きっと、その距離を越えられるとは思ってない。もし彼女たちのどちらかがそれを越えてこようとすれば、那央くんは迷わず彼女たちとのあいだに線を引くだろう。

 それがわかっているのに、彼女たちの存在に。那央くんに近付けない距離に、モヤモヤとする。

 どうして、わたしはこうなのだろう。わたしはいつも、届かない恋ばかりしてしまう。