二学期が始まってすぐ。昼休みにお弁当を持って化学準備室を訪れると、既に先客がいた。那央くんのそばには、三年生と思われる女子生徒がふたり。授業の質問にきたのか、デスクの端に問題集とノートを広げている。

 すぐ終わるかと思ってしばらく待っていたけど、三年生の女子たちの質問はなかなか終わらなかった。

 やっと、夏休みが終わって会えたのに。ドアの隙間からは、他の生徒と楽しそうに話している那央くんの横顔しか見えない。気付いてくれないかな、と思って思念を送ってみたけど、そんなもの届くはずもなく。わたしは化学準備室を離れて、ひとりでお弁当を食べた。

 放課後にもう一度化学準備室に出直してみると、また先客がいた。昼休みに質問にきていた、三年生の女子二人組だ。昼休みだけでは質問を解消しきれなかったのか、デスクの端にノートを開いて頬杖をつきながら、那央くんの話を聞いている。しばらくすると、ふたりがデスクの上のノートを閉じる。

 やっと話が終わったらしい。ほっとしていると、三年生の女子のひとりが、椅子の下で足をぶらぶらと揺らしながら那央くんを見上げた。

「那央くんて、数学も教えられたりする?」
「んー、まぁ、いちおう。簡単な質問に答えるくらいならできるかな」
「そうなんだ。じゃぁ、今度数学の問題集も持ってきていい?」
「別にいいけど」
「ほんと? じゃぁ、これからときどきここで勉強させてよ。昼休みとか放課後に、来てもいい?」

 やや前のめりになって訊ねる彼女の、声のトーンが上がる。その隣で彼女の友達が、嬉しそうにニヤニヤとしていた。

 それって、勉強をダシにして那央くんと仲良くなろうとしてるんじゃん。