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一学期のあいだ、わたしは何かと理由をつけて、那央くんに会いに行った。
特に雨が降った日の放課後は、頼まれてもいないのに化学準備室に押しかけて行って、一緒に帰った。
「雨が降ったときは呼んでいい」と言ったのに、那央くんが少しも頼ってくれないから、勝手に付き纏うしかなかったのだ。
那央くんは、そんなわたしに呆れていたけど、邪険にすることもなかった。
けれど夏休みに入ると、全く那央くんに会えなくなった。偶然会えることを期待して、那央くんの家の最寄りのレンタルショップに定期的にDVDを借りに行ったり、那央くんの家の近くのコンビニまで買い物に行ってみたりしたけど、彼を見かけることはなかった。
夏休み中に、何回か雨が降った。雨の降っているあいだ、スマホを握りしめて待機していたけど、当然のように那央くんからの電話はかかってこなかった。
那央くんには会えなかったけれど、健吾くんと母との仲は良好だった。
健吾くんと母の休みを合わせて、初めて三人で温泉に一泊旅行もした。家族旅行なんて、実の父が亡くなって以来のことだった。
旅館の夜ご飯に出てきた海の幸満載の料理はすごく美味しかったし、母とふたりでゆっくりと温泉に浸かってくつろげた。
少し前までは健吾くんと母のあいだにいることが苦しくて仕方なかったのに、旅行のあいだは三人でいられる時間が幸せだった。
わたしは少しずつ、健吾くんのなりたかった《家族》に近付けているんじゃないかと思う。