雨の日のトラウマのことを正直に言えないような彼女と付き合っていて、那央くんはこの先潰れてしまわないだろうか。
駅のロータリーで、遠い目をして雨を打つフロントガラスを見つめていた、真っ白な那央くんの横顔を思い出す。またあのときみたいに、ひとりきりでどうにも動けなくなったら……。那央くんは、どうなってしまうんだろう。
「この前は岩瀬がいたから気が紛れて助かった。だけどできれば、あのことは忘れて」
綺麗な笑顔で、わたしのことをあっさりと切り捨ててしまおうとする那央くんの言葉にモヤモヤする。
胸が痛くて苦しくて、うまく説明できないけど。偶然とはいえ、秘密を知ってしまったわたしに対して、那央くんが壁を作ってしまっていることが哀しい。哀しくて、少し腹が立つ。
「忘れられるわけないよ」
スカートに触れた手を、力任せにぎゅっと握りしめて立ち止まる。振り向いた那央くんのを見つめて、唇をかみしめると、彼が僅かに首を横に傾けた。
「彼女にも話せないような秘密を抱えて生きていくのなんて、苦しいじゃん。本当に今の彼女とずっと一緒にいたいと思ってるなら、怒られても殴られても、雨の日が苦手なことを話しなよ。もし彼女と結婚することが決まったらどうするの? それでも、隠しとおすの? そんなの無理じゃん。考えなくてもわかるよ。彼女だって、本当に那央くんのことを大切に想ってるなら、そばにいて助けてくれるんじゃないの?」
那央くんは、感情的に言葉をぶつけたわたしのことを数秒驚いた顔で見つめ、それからふっと脱力するように笑った。少し疲れの色が滲む笑顔が、わたしの心をざわつかせる。
もしかしたら那央くんは、今の彼女との関係をハナから諦めているのかもしれない。