「そんなことないよ、灰谷さん!」
力強くそう言ったのは、肩を震わせながら私を見る、織矢くんだった。
「だって、灰谷さんはそれだけ、本気だったってことじゃないか!」
「本気……?」
私は、彼が何を言っているのか、全く理解できなかった。
「そうだよ! それだけ、灰谷さんがシンデレラを演じる為に頑張ってきた証拠じゃないか!」
それでも、織矢くんは自分の胸に手を当てて、私に向かって話し続ける。
「僕は、たった一度だけど、灰谷さんが躍るシンデレラを観た……。そのとき、言葉に出来ないくらいの感動を貰って……だから、その……!」
彼は途中で悔しがるように頭を掻いて、項垂れる。
しかし、次の瞬間、私のほうへと近づいてきて、私の手を強く握る。
「やっぱり、僕は灰谷さんに『シンデレラ』をやってほしい! 沢山の人に、灰谷さんのシンデレラを観て欲しいんだ!」
私を覗く彼のうるんだ瞳の中に、小さな輝きがあるのを私は見てしまった。
「……無理、だよ」
だけど、私はまた、逃げるようにして彼の視線から顔を逸らした。
「私なんかが、シンデレラになれるわけない……」
弱々しく、そう口にした私だったが……。
「なれるよ!! 絶対に!!」
そんな私を、織矢くんは力強い言葉でねじ伏せる。
「だから、やろうよ、灰谷さん! そりゃあ……『星宙』みたいに立派な会場も舞台セットも用意できないけど……それでもッ!」
そして、最後に織矢くんは、私にこう言った。