「……あれから、舞とは会ってない。会うのが……怖かったから」

 私が劇団を辞めてからも、舞は何度もメールや電話をくれたけど、私はそれをずっと無視し続けていた。

 すると、1年もすれば、彼女からの連絡はなくなって、私も演劇の世界から遠ざかることができた。

 だけど、あの日のことを思い出すと、今でも震えが止まらない。


 ――もし、あのとき私が、本当に彼女の背中を押してしまっていたら。


 考えるだけで、胃の中の物を全部吐き出してしまいそうだった。

「恵麻ちゃん……」


 ずっと黙って私の話を聞いていたあかりが、そっと私の背中を擦る。

 そのおかげで、私はなんとか声を絞り出すことができた。

「だから……私はもう……舞台に立つ権利なんてないんだよ……」

 その言葉は、私自身に向けた言葉だった。

「……そんなこと、ない」

「……えっ?」

 しかし、私の言葉を否定する声が、耳から入ってくる。