「……舞、危ないよ」

 彼女の服を掴んで、無理やり後ろに下げさせた。

 すると、舞は「ごめんね」といって、屈託のない笑みを浮かべる。

 そして、電車は到着して、ドアが開く。

 それでも、私は握っていた舞の服を放せなかった。

 ――恵麻?

 舞が私の名前を呼んだところで、ようやく私は我に返り、手を離すことが出来た。

 私は一体、なんてことをしようとしてしまったのだろう。

 思い出すだけで、私は自分の恐ろしさに震え上がった。

 このままだと、私は舞に対して取り返しのつかないことをしてしまう。

 そして私は、この日のうちに座長と話し合って、劇団『星宙』を退団した。
勿論、自分が舞を線路の下に突き落とそうとしたなんて話はしなかったけど、『星宙』みたいな厳しい劇団では、退団者が出ることは別段珍しいことではない。

 私は、いともあっさりと、演劇の世界から消えることになった。