それは、いつもと何も変わらない、劇団『星宙』の稽古場まで向かう道中だった。

 私は、自分の家から電車を乗り継いて稽古場へ向かっていたのだが、その日は乗り換えのホームで、偶然、舞ど遭遇した。

 なんでも、いつも送迎してくれている運転手さんに急用が出来てしまったそうで、その日は車ではなく電車で向かわなくてはいけなくなったそうだ。

 お金持ちなんだから、タクシーでも呼べばいいのに……なんて思ってしまったけれど、口には出さなかった。

 そして、一緒に次の電車を待っている間、舞はずっと、次の公演である『シンデレラ』の演技プランについて、私に相談を持ち掛けてきた。

 あのシーンは、もっと感情を出したほうがいいのか。

 このシーンの踊りは、もっと大胆にやってみたい、だとか。

 私に意見を求めるように、何度もしつこく聞いてくる。


 やめてよ。

 なんで、あなたの代役でしかない私が、そんなことを聞かなくちゃいけないんだ。


 心の中でそう思っていても、口に出すことはできない。

 それでも、舞はずっと、私に『シンデレラ』の話をしてくる。

 私にとっては、今の舞と2人でいることが苦痛のように感じてしまっていた。

 そして、長い長い時間を過ごしたあとに、ようやく駅のホームで次の電車が到着するアナウンスが流れる。