「私が演劇を辞めようと思ったキッカケは、確かに『シンデレラ』の公演だった。だけど、あかりの言う通り、主演に選ばれなかったからじゃないの」
ずっと憧れだったシンデレラに選ばれなかったときは、本当にショックだったし、両親にバレないようにベッドの中で朝まで泣いてしまったことだってあった。
だけど、私はこの結果を、ちゃんと受け止めようと思った。
もし、シンデレラに選ばれたのが他の人だったら、諦めきれなかったかもしれない。
だけど、シンデレラを演じるのは、あの白雪舞だ。
私なんかが、敵う相手じゃない。
そうやって、ずっとずっと、自分に言い聞かせてきた。
だけど、それが自分自身を納得させる為の嘘だということは、最初から気付いていた。
『シンデレラ』の公演が近づいて、稽古も佳境へと差し掛かっている頃、私は舞台袖からリハーサルをしている舞の姿をみて、こんな風に思ってしまうことが多くなっていった。
どうして、私じゃなくて舞がシンデレラなの?
あの子は、私の持っていない物を全部持っているのに。
それなのに、私の夢まで奪ってしまうの?
そんな得体も知れない感情が、私の心の中をかき乱す。
そして、事件は起こってしまった。
いや、正確にいえば、未遂で終わった事件かもしれない。
だけど、私にとっては決して忘れてはいけない出来事だった。